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海外との交流・情報発信

臨床から見た日本の公害患者の特徴

西淀病院 穐久英明

日本の公害は、水俣病(熊本県水俣市のチッソ水俣工場の排水に含まれた有機水銀で不知火海の魚介類が汚染され、それを食べた熊本、鹿児島両県の住民が発症した有機水銀中毒)の様に、他の地域で見られない特異的な病気と大気汚染による気管支喘息、慢性気管支炎、喘息性気管支炎、肺気腫などの様に他の地域でも見られる非特異的な病気の2種類がある。私は、大気汚染地域で医療活動をしており、大気汚染について述べる。

私が勤務している西淀川区は、大阪府の北西端に位置し、その北を流れる神崎川、左門殿川、中島川の対岸が兵庫県尼崎市となっている。西は大阪湾、南は淀川を隔てて此花区、福島区、東は東海道本線を境として淀川区と接している。北に尼崎市、南に此花区という重化学工業地にはさまれた西淀川区もまた工業の盛んな地である。

大気汚染とは、人間の生産・社会活動等によって、生活環境における大気汚染がそのような排出のない地域よりも汚染され、その結果、物的あるいは健康上の被害を受ける状態を言う。

日本における大気汚染公害についてはすでに19世紀から局地的に問題になっていた。健康被害については、1946年以後の在日駐留米軍関係者(家族を含む)を中心にした、東京・横浜喘息などが報告されているが、その後の産業の復興の中でクローズアップされてきた。特に象徴的な例としては、四日市石油コンビナートの稼働(1995年以後)による近接地域での多数の呼吸器疾患患者の発生があり、その被害実態は、その後の日本各地における公害反対の住民運動に大きな影響を与えた。

その四日市における健康被害は、「四日市喘息」とも呼ばれ、その中には、上部気道(咽頭・喉頭)の強い炎症や、気管支炎、気管支喘息、肺気腫などの各種呼吸器疾患が含まれ、「四日市喘息」はそうしたものの総称とも言えるものだった。そして四日市公害裁判が提起され5年にわたる審理の末、被害者の訴えは認められ、企業の責任を全面的に認める画期的な判決が1972年に下された。

その同じ頃、西淀川の大気汚染も大変深刻なもので、時には汚染のため50メートル、100メートル先が見えない時もあった。汚染状況は四日市を上回るものでした。当時の西淀川区の亜硫酸ガス(SO2)濃度はしばしば0.2PPMを越えるという状況でした。

その中で西淀川区の住民の健康被害が進んだわけで、地域によっては1割を越す住民が呼吸器障害に悩まされた。
「公害にかかわる健康被害の救済に関する特別措地法」(1969年)や、「公害健康被害補償法」(1974年)制定・実施、硫黄分の多い重油から少ないものへの燃料転換、脱硫装置の設置や各種の規定のもとで、危険的な粉塵、SO2の汚染は一定改善された。

しかしそれと並行して、日本社会は、鉄道・公共輸送から、自動車輸送、マイカー時代へとモータリゼーション化が進んだ。

この西淀川区でも国道2号線は阪神電車の路面線が撤去され、車があふれるようになり、産業道路の国道43号線は大型トラックが走り回り、さらに阪神高速道路の大阪池田線、大阪西宮線が開設され、それぞれ1日の走行台数は数万台、合計すれば、30万台以上にも及ぶ通行台数となってきている。

その結果、粉塵の減少で見かけ上は大気汚染は改善されたように見えるが、微細な浮遊粒子上物質(SPM)や窒素酸化物(NO、NO2など)は減少せず、むしろ悪化傾向にあり以前として激しい汚染状況の中にあり、呼吸器疾患も多発している。

大気汚染によって起きる病気としては、結膜炎、鼻炎、咽頭炎、喉頭炎、急性気管支炎、喘息性気管支炎、慢性気管支炎、肺気腫、肺癌、悪性中皮腫などがありますが、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、喘息性気管支炎の4つの病気が、公害健康補償法で、補償の対象となる認定疾病とされた。4つの病気すらも、1988年2月をもって、新たな認定はなされなくなった。

4つの認定疾病の病気の原因は、種々ある。気管支喘息はアレルギー、感染、身体的・精神的ストレスなどがあり、発作の誘因としては他に天候・気温の変化、感冒、過労等もあげられる。慢性気管支炎では、素因、感染、喫煙などが、肺気腫では、遺伝的因子(日本では極めて少ないが)、加齢の因子、喫煙などが考えられる。

大気汚染がこれら呼吸器疾患にどのようにかかわっているかというと、まず汚染物質の吸入により直接作用として炎症が起こりやすくなるということ、間接的にはせん毛運動の低下など、が言われてきた。

大気汚染地域で気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫や喘息性気管支炎が、非汚染地域の2~3倍と多く発生している。

さて、最近大気汚染とアレルギーに関して知見が得られている。

大気中の気体成分のSOx、NOxが、従来より、気道障害性・過敏性との相関で論じられてきた。最近は、浮遊粒子物質(SPM)、特にディーゼル排気微粒子(DEP)の影響が論じられている。

まず、NOxについて述べる。

常俊は、NOxに関し1980年以降日本で行われた疫学調査を概括し、学童期の喘息の有症率は大気汚染濃度の高い都市部、特に、NO2の環境基準の上限値を越える地区の有症率は大気汚染の濃度の低い農村部の有症率よりも明らかに高率であること、また70年代の調査で見られた、高学年ほど有症率が低くなる(成長と共に治癒する)傾向は次第に薄れ、最近の調査では高学年ほど有症率が高率になる傾向が見られている。同一対象校を経年的に調査した追跡調査では、学童期でも喘息の新規発症が見られ、この新規発症率は大気汚染濃度が高い地区程高率であること。
一方、喘息の発症に関与する個体の素因のついては非特異的IgEの分布に地域差が見られず、非特異的IgE正常群の有症率に地域差が見られることが報告されている。

三宅は環境庁が80年から84年にわたり全国51地域、150の小学校の学童を対象として行った調査結果を解析し、NO2濃度が増加するにつれてアレルギー素因保有率も高まり、アレルギー素因のある群ではNO2が30ppbを越えると、喘息様症状有症率も高まることも判明した。

動物実験では、高濃度NO2暴露で、気道反応性の亢進、感染抵抗性の減弱を引き起こすことが証明されている。

人への実験的負荷研究では、気道反応性は、気管支喘息患者は、健常者よりも低濃度で、反応性の亢進が報告されている。感染抵抗性の減弱を引き起こす可能性も報告されている。

次にSPMについて述べる。

大気中には気体以外にも液体・個体の成分も存在しており、これらの浮遊粒子はSPMと呼ばれている。SPMは、さまざまに異なる粒子集合体の大気成分の総称であり、その中で、ディーゼルエンジンから大量に排出されている黒色の排気微粒子(DEP)が最近注目されている。最近の報告では、

  • 村中らは、スギ花粉アレルギーDEP混合液をマウス鼻孔に繰り返し滴下したときのIgE抗体応答を調べ、DEPのアジュバンド作用を確認した。1984年に日光地域でスギ花粉疫学調査が行われ、その結果道路沿いでスギ花粉量が多い地域でのスギ花粉症が、スギ花粉量は多いがトラックの従来の少ない地域に比べて優位に高いことが判明した。
  • SPMもアジュバント作用を持つこと(高藤)。
  • A/Jマウスの気道過敏性はDEPの経気道投与により亢進すること(宮坂)。
  • ICPマウスに対するDEPの経気道投与により気管支粘膜下に好酸球・好中球(特に好酸球)の浸潤が誘導されること(嵯峨井)。
  • ICRマウスにおいて気道過敏性が亢進し病理学的にも気道上皮の障害と分泌細胞の増殖が認められること(太田)。
  • ヒトB細胞に、IL-4と抗CD抗体を用いたIgE産生系において、DEPの添加により、IgE抗体に産生は亢進した(竹中)。
  • DEPなどはヒト気道上皮細胞に対してサイトカイン産生増強作用を有し、アレルギー性炎症反応の発現、慢性化・遷延化に関与している可能性を示唆(大利)。

一般臨床医の立場から言えば、スギ花粉症の患者は、年々増加しているが、IgE(RAST)は陽性でも、IgEは正常範囲な患者が圧倒的で、IgEの値だけで、アレルギー疾患の地域差は論じれない。またNOx排出量の多くは自動車に由来する(例えば、東京都内では約7割)と考えられ、自動車の排気ガスの影響を考える点で重要だが、NOxだけでは、動物実験などを含め十分説明できなかった。それが今までの公害裁判にも影響していると考えられる。SPMなど汚染物質も、多面的に考えられ、色々な角度から研究が必要。また今まで、地域住民の運動として、NOxの自主測定運動が、地道にやられてきたが、住民運動も、NOx一本やりでは困難と考えられる。

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