[要約]
台湾では、過去20年の急速な民主化の流れの中で、政府の主要な規制領域に確実に市民が参画するようになってきている。中でも環境保全は、意思決定組機関において発言権を持つことや、公聴会、デモ、座り込み、訴訟に参加することを含め、様々な形で市民が大きく関わる意識を喚起する問題であると考えられている。ここ数年、関係市民あるいは環境団体は、環境問題に取り組む上で、従来よりも頻繁に裁判に訴えるようになっている。これが可能になったのは、特に、環境に関して市民が裁判を起こすことを認めるようになった立法上の努力があったからである。
本稿では、台湾における環境市民訴訟の状況を概説することに加え、その制度的および社会的背景の分析を試みる。ほとんどの市民訴訟を検討する予定であるが、2008年の台東美麗灣訴訟判決は、原告たる環境団体が初めて勝訴した画期的な判決であり、将来的に非常に重要なものとなろう。この分析に引き続き、現在の実務の法的根拠について一般的に検討する。
本稿は、現在急増中の環境市民訴訟は民主化によって推進されてきたものであると結論づける。公益訴訟を通じた市民参加は、今後環境を保護するだけでなく、「私たち共有の環境」を大切にすることで市民社会に力を与えていくであろう。
台湾大学法学士・法学修士号、エール大学ロースクール法学修士、法学博士。現在、国立台湾大学法律学院 法律学教授。「持続可能な発展のための政策・法センター(PLES)」所長。 主な教育分野は環境法、持続可能な発展と法、憲法および行政法等である。公法の教授として、Yeh教授はこれまで台湾の多数の憲法、立法、規制問題に広範にかかわっており、具体的には、情報自由法、行政手続法、スーパーファンド法、温室効果ガス規制法等いくつかの主要法案の起草に携わっている。英語と中国語の両言語にて書物や記事など精力的な執筆活動を行っており、環境法・政策、地球環境の持続可能性、憲法改正、グローバル化と規制手続等のテーマを網羅し、また、国家科学委員会の優秀研究賞を受賞している。教授は、2002年に政務委員として台湾政府行政院(訳注:日本の内閣に相当)の一員となり、各省間調整を担当した。さらに教授は、行政院長が主宰する2つの重要な委員会である、持続可能な開発国家委員会と有機的改革委員会の委員長を務めた。2005年には国民議会事務総長に選出されており、同議会により立法院が提出した憲法改正案が可決されている。2006年には国立台湾大学ロースクールより「特別教授」に任命されている。